こども家庭庁が性教育人材5万人を育成──数十億円の予算は本当に“子ども”のためか?

社会問題

こども家庭庁が打ち出した新たな政策──性に関する正しい知識を子どもたちに届けるため、全国で“性教育の担い手”を5万人育成するという。背景には、若年層の性被害やSNSを通じた誤情報の蔓延など、現代ならではの課題がある。

一見すると“前向きな政策”にも思えるが、その実態には疑問の声も少なくない。 数十億円規模とも言われる事業費、そして「育成された人たちは何をするのか?」という根本的な問い──本当にこの施策は、子どもたちの未来のためになっているのだろうか。

こども家庭庁とは?──歴史・予算・主な取り組みを簡潔に整理

2023年4月に発足したこども家庭庁は、児童虐待、いじめ、ヤングケアラー、貧困など、複雑化する子どもに関する課題に包括的に対応するために設立された。従来の縦割り行政を打破し、子ども政策の司令塔となることを目的としている。

2023年度の予算は約4.8兆円にのぼり、保育・子育て支援に約3.6兆円、児童虐待防止に1,700億円超が投じられている。今回の性教育人材育成事業もその一環である。

これまでに「こども大綱」や「はじめの100か月ビジョン」などの基本方針策定、子どもの声を反映する取り組み(こども若者★いけんぷらす)などを実施してきたが、現場への実効性や効果測定には課題も残っている。

こども家庭庁の「性教育5万人育成計画」とは──見えてきた理想と現実のギャップ

こども家庭庁が打ち出した「性教育の担い手5万人育成計画」。これは、性に関する正しい知識を子どもたちに届けるため、教員や保健師、地域のNPO関係者などを対象に研修を行い、全国規模で人材を育成するというものだ。

確かに、性教育の重要性が高まっているのは間違いない。だが、この計画には“理想先行”の印象が拭えない。5万人を短期間で育成することの現実味や、研修の中身の具体性、さらには「本当に子どものためになるのか?」という問いが残る。

SNSと若年層の性トラブル──確かに課題は山積み

背景には、10代の性被害や望まない妊娠の増加、SNSを通じた誤情報の蔓延といった社会問題がある。特にネット上では、極端な性表現や間違った避妊知識が簡単に広がっており、これに歯止めをかけるための取り組みは必要不可欠だ。

現場の教員や保護者だけでこの問題に対処するのは難しい。そういった意味では、人材育成という方向性は理解できる。しかし、それが「5万人」という“数”ありきの政策になってはいないか。

ネットや現場の声は賛否両論──「誰が教える?」「そんな余裕ない」

SNSでは、「性教育がようやく重視されるようになった」という歓迎の声もある一方で、「誰が教えるの?」「本当に現場に人材が足りてると思ってるの?」という懐疑的な意見も多い。

実際、学校現場では教員が多忙を極めており、性教育のための時間を確保することすら難しい状況。保健師やNPO職員に丸投げする形で進められるなら、単なる“責任の押し付け”になりかねない。

数十億円の予算、その効果は本当に“見える”のか?

この育成計画には、数十億円規模の予算が投じられる見込みだ。仮に1人あたりの研修コストが5万円だとすれば、5万人で総額25億円。しかも、内容はeラーニングや数回の集合研修で終わるという。

この規模の投資が、実際にどれほどの効果を上げるのかは極めて不透明だ。「育成しました」で終わる形式的な政策になってしまえば、税金の無駄遣いと批判されても仕方がない。

実施主体は誰?──「担い手」の定義と育成後の役割を整理

こども家庭庁の「性教育の担い手5万人育成計画」で言う“担い手”とは、誰を指すのだろうか?

発表によると、対象となるのは主に次のような層だ。

学校の教員(特に保健体育・養護教諭)

地域保健師・助産師

子育て支援NPOの職員

児童館・福祉関係者

一部の大学関係者や学生ボランティア

これらの人々に対して、eラーニングと集合研修を組み合わせた形で「性に関する正しい知識と対話力」を育成していくという。

しかし、ここでひとつ疑問が浮かぶ。

研修を受けた後、これらの人たちは“具体的にどこで・誰に・どのように教えるのか?”が、極めて不透明なのだ。

例えば、小学校の教員がこの研修を受けたとして、学校のカリキュラムや保護者の同意を無視して性教育を実施することはできない。保健師が市民講座などで伝える場があるにしても、それが全国の子どもたちにどう届くのかは未知数だ。

さらに、「研修を受けた=性教育のプロ」ではない。数時間の研修で習得できる範囲には限界があり、倫理観やジェンダー感覚、価値観の違いも大きく影響する。

担い手の「質の担保」や、「継続的な学びと実践の機会」が設計されていないままでは、単に“数をこなす”政策に終わってしまう恐れがある。

筆者の懸念:「人を育てる前に、現場の“余力”を育てるべきでは?」

筆者が強く懸念しているのは、性教育の担い手を増やす以前に、現場に“教える余力”がないという現実だ。教員は多忙、保健師も人手不足。そんな中で、「正しい性の知識を子どもと丁寧に対話する」という行為がどれほど難しいことか。

性教育は「正解を与える」ものではなく、「信頼関係のなかで対話する」営みだ。単に知識を伝える人を増やしても、子どもたちの心に届くとは限らない。

では、どうすればよかったのか──筆者が考える“代案”

筆者が提案したいのは、「数」で押し切るのではなく、“質”と“継続性”を重視した少数精鋭の育成だ。その上で、彼らを支える継続的なフォローアップ体制を整えることが必要だ。

また、保護者や地域社会と連携した啓発活動を強化することで、性教育に対する理解を広げることも不可欠だろう。学校だけに任せず、社会全体で子どもを支える枠組みを築くことが、本当の意味での性教育の前進につながるはずだ。

「育成数」よりも「関係性」──本当に子どものためになる性教育とは

子どもたちが本当に必要としているのは、「5万人」ではなく「1人の信頼できる大人」かもしれない。頭数を揃えることに力を入れるよりも、子どもが安心して話せる関係性を築くことのほうがはるかに重要だ。

性教育とは、単なる情報伝達ではなく、人生観や価値観に触れる繊細なテーマだ。だからこそ、信頼できる関係性の中で行われるべきものだ。

まとめ:予算をかけるなら、まず“信頼の土壌”づくりから

こども家庭庁の「性教育担い手5万人育成計画」は、一見前向きな取り組みに見える。だが、数にこだわった育成と、現場の実情や子どもとの関係性を軽視した設計には、大きな課題がある。

予算をかけるなら、その効果が本当に子どもたちのためになるのかを、今一度立ち止まって考えるべきではないだろうか。信頼と対話を軸にした、丁寧で着実な性教育こそが、今求められているものだ。

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