退職代行は“逃げ”なのか?──3つの視点から考える現代の退職事情

社会問題

「退職代行なんて甘えだ」「自分の口で辞めるのが社会人としての常識」——そんな声がいまだに根強く残る日本社会。しかし、退職はれっきとした労働者の権利だ。もしその権利すら行使できないような職場環境があるならば、退職代行を使うのは“逃げ”ではなく“自衛”だと、僕は考えている。

本記事では、退職代行という新たな選択肢を社会問題として捉え、一般人・企業・代行業者の3つの視点から掘り下げていく。そして、なぜ今これほどまでに退職代行が求められているのか、その背景にある日本の労働構造にも迫りたい。

「退職すら言い出せない」若者たちの現実

退職代行の利用者の多くは20代。なかでも、半年未満の勤続で退職するケースが全体の6割以上を占めている(モームリ社調べ)。背景には、上司からのパワハラ・長時間労働・職場の人間関係といった問題がある。

辞めるときまで精神的に追い詰められていて、「自分の口で辞めたいと言えない」という若者が増えているのだ。

SNS上では「退職代行使ってよかった」「自分で言うのが怖くて無理だった」という声も多く見られる。こうしたリアルな体験が共感を呼び、さらに利用者を増やすという循環もある。

突然の退職に困惑──企業側の本音と課題

退職代行により、突然社員が来なくなる。企業側にとっては当然、業務の引継ぎや人員補填などの点で混乱を招くことになる。2024年には、23.2%の企業が「退職代行によって社員が辞めた」と回答している(マイナビ調査)。

一方で、「なぜ退職代行を使われたのか?」という内省が企業側に足りていないケースも少なくない。過酷な労働環境や、退職希望を出すと圧をかける企業文化が、結果的に代行の需要を高めていることに気づく必要がある。

企業の側も、従業員の声に耳を傾ける仕組みや、メンタルケア、キャリア面談の制度を整えることで、退職代行に頼られない職場づくりが求められている。

「最後の逃げ場」か「必要な選択肢」か?──退職代行の現場から

現在、国内には100社を超える退職代行業者が存在し、その多くが20〜30代の若者を中心にサービスを提供している。中には弁護士監修のサービスもあり、法的トラブルのリスクを回避する体制も整えつつある。

一方で、悪質な業者による「連絡が取れない」「追加費用が発生する」などのトラブルも報告されており、サービス選びには慎重さが求められる。

それでも、退職を言い出せないほど追い詰められている人にとって、退職代行は“最後のセーフティネット”になっているのは間違いない。

データで読み解く:利用者の年齢・職歴・傾向

・20代の利用が6割以上(Web担当者Forum調査) ・30代以下でほぼ9割を占める ・勤続半年未満での利用が63.2% ・検索ボリュームは年間470万回(2023年)で上昇傾向

これらのデータから見えてくるのは、退職代行が「働き始めてすぐ辞めたいけど言い出せない」人々のニーズを中心に成立しているということ。社会人として未熟なのではなく、むしろ職場環境が未成熟であることの裏返しなのかもしれない。

「退職代行=甘え」は古い?──筆者が中立の立場から考える理由

僕は退職代行の利用を積極的に推奨するわけではない。しかし、退職という労働者の権利を行使することを妨げる職場においては、退職代行は必要な手段だと考えている。

人によっては、直接伝えるだけで吐き気や動悸を起こすほど追い込まれていることもある。そうした人に「甘えるな」「自己責任だ」と言うのは、あまりに酷だ。

「本当は自分で言いたかったけど、それすら難しかった」——そんな声に耳を傾けることが、まずは必要なのではないだろうか。

退職代行にかかる費用とサービスの違い

退職代行サービスの料金は、依頼先によって大きく異なります。一般的な目安は以下の通りです。

民間業者:2万円〜3万円前後
※LINEや電話だけで完結する手軽さが特徴。会社との交渉は不可(非弁行為に該当するため)

労働組合系サービス:2.5万円〜3.5万円程度
※会社側と交渉が可能。正当な権利主張ができる点がメリット

弁護士による代行:5万円〜10万円以上
※未払い残業代請求や退職拒否など、法的トラブルに対応可能

一見高く見えるかもしれませんが、「辞めたいけど辞められない」状況を脱出するための費用と考えれば、妥当と捉える人も少なくありません。

まとめ:退職代行のある社会は不健全なのか、それとも健全なのか

退職代行が必要とされる社会は、決して理想的とは言えないかもしれない。しかし、それは同時に、個人が「もう限界だ」と思ったときに逃げられる選択肢がある社会でもある。

僕は、退職代行の利用そのものに善悪を感じていない。むしろ、退職という当たり前の権利を阻まれるような職場なら、どんどん使っていいとさえ思っている。

過酷な労働環境で心や体を壊してまで働く必要はありません。もしあなたがいま、本当に辛いと感じているのなら、一刻も早く辞めてください。退職代行を使っても構いません。

すべての労働者が、自分の人生を自分らしく選べる——そんな社会になることを、僕は心から願っています。

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